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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)356号 判決

被告人 ダンケミカル株式会社 外三名

主文

被告人ダンケミカル株式会社を罰金一〇万円に、被告人川口勲を懲役一〇月及び罰金一〇万円に、被告人有限会社大池製作所を罰金五万円に、被告人富家通好を懲役三月及び罰金五万円に、各処する。

被告人川口勲及び被告人富家通好において、右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日として換算した期間その被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から被告人川口勲に対し二年間、被告人富家通好に対し一年間、それぞれその懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

当裁判所の認定した罪となるべき事実は、起訴状に記載された各公訴事実中第二の一の二行目に「一一月一九日」とあるのを「六月一〇日」と、また起訴状に添付された別紙一覧表(二)の番号六九五の製造年月日欄に「五一・一一・一九」とあるのを「五一・二・一九」とそれぞれ訂正するほか、右各公訴事実と同一であるから、これを引用する。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

罰条

判示第一の所為

刑法六〇条、毒物及び劇物取締法二四条一号、三条一項、毒物及び劇物指定令二条一項七六の二

被告人ダンケミカル株式会社及び同有限会社大池製作所につき、更に毒物及び劇物取締法二六条

判示第二の一及び二の各所為

いずれも刑法六〇条、毒物及び劇物取締法二四条一号、三条三項、判示第二の一の所為につき更に毒物及び劇物指定令二条一項七六の二

被告人ダンケミカル株式会社につき、更に毒物及び劇物取締法二六条

刑の併科

被告人川口勲及び同富家通好につき毒物及び劇物取締法二四条一号により懲役刑及び罰金刑を併科

併合罪の処理

被告人ダンケミカル株式会社につき、刑法四五条前段、四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算

被告人川口勲につき、刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の一の罪の刑に法定の加重、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算

労役場留置

被告人川口勲及び同富家通好につき刑法一八条

刑の執行猶予

被告人川口勲及び同富家通好につき刑法二五条一項

(説明)

毒物及び劇物取締法(以下本法という。)にいわゆる製造の意義について検討するに、製造とは、通常の用語例によれば、ある物に加工して、実質の異なる物を創造(生産)することを意味するが、(1)旧薬事法(昭和二三年法律第一九七号)においては、二六条にいう製造の意義について、いわゆる小分を含むというのが判例及び行政解釈であつたこと、(2)現行薬事法(昭和三五年法律第一四五号)においては、一二条一項に医薬品等の「製造(小分けを含む、以下同じ)」と規定し、同法にいわゆる製造とは小分けを含むものであることを明文化していること、(3)覚せい剤取締法においては、製造について格別定義規定はないけれども、同法一五条一項にいわゆる製造の意義について、「同法にいわゆる製造とは広義であつて、覚せい剤の原料から化学的方法により覚せい剤を製出し又は化学的変化を伴わないで調合又は混合してこれを製剤する場合は勿論、かかる製品を小分けして容器に納め封緘を施し覚せい剤の施用機関又は研究者に譲り渡すに適する状態を製作する場合をも含むものと解するを相当とする。」というのが判例であること(最高決昭和二八年一〇月二二日最高刑集七巻一〇号一九五二頁、最高決昭和三一年一〇月一六日裁判集刑事一一五号一一一頁等参照)、などをみると、本法と近接類似した立法においては、製造の意義として、ある物に加工して実質の異なる物を創造(生産)することのほかに、ある物を分割して容器に収めること、すなわちいわゆる小分けを含むものとして、これを広義に用いている例がいくつかあることがわかる。

そうすると、本法にいわゆる製造を、狭義のものとするか又は広義のものとするかは、通常の用語例のほかに、前述の事情も踏まえて、合理的に解釈されるべきものと考えられるところ、(1)本法の目的である保健衛生上の見地から必要な取締りを行うということ(一条)や三条一項ないし三項による毒物及び劇物の製造等の規制の趣旨・目的からすると、いわゆる「小分け」を放任することは適当とは考えられないが、本法においては、製造を広義のものとして「小分け」をその中に含ませるのでなければ、他にこれを規制する規定はないこと、(2)前述のとおり、薬事法においては医薬品等の製造に、また覚せい剤取締法においては覚せい剤の製造に、いずれも小分を含ませているので、それぞれについての製造を規制することにより、その小分けをも含めて規制することになっているのは勿論、麻薬取締法においては、二条に定義規定をおいて、製造を、製剤及び小分けと区別された狭義のものとして用いているが、そこでもその製造のほかに、製剤及び小分けも規制対象とされていること、(3)行政解釈は、一貫して小分けも製造に該当するとし、行政面においてはそのように運用されているという実情があること、などの事情が認められるので、本法にいわゆる製造は、通常の用語例には反するけれども、前述した広義のものとして、いわゆる小分をも含むものと解するのを相当と考える。

そこで主文のとおり判決する。

(裁判官 濱崎裕)

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